マイナ保険証

 政府は2024年12月2日以降、健康保険証をマイナ保険証に一本化すると発表しました。しかし、マイナ保険証にまつわるトラブルの報道は相変わらず続いており、現行の保険証の存続を求める声も強くなっています。そもそも、現行の保険証で大過なく保険診療が行われているのに廃止する必要があるのでしょうか。なりすまし防止が声高に言われますが、5年間で約50件ほどしか確認されていない「なりすまし」を現行の保険証の廃止根拠とするのには無理があります。ここでは、マイナ保険証について解説します。(2024年4月6日、加筆修正)

 

Q1. マイナンバー・カードはマイナンバーが書かれているカードのことではないのですか?

A1. 確かに、マイナンバー・カードの裏面にはマイナンバーが記載されていますが、このふたつは別物と考えるべきです。

 マイナンバーは既に全ての国民に付番された12桁の番号です。社会保障と税(あとから災害対策も追加)の分野における行政のデジタル化による事務の効率化を目的とした番号で、使用する場面が法律で限定されています。番号の呈示が義務とされる場面は極めて限定的で、大半が金融・証券関係です。それ以外では、こちらがマイナンバーを呈示しなくても行政機関で調べることができます。例えば、確定申告時に申告書にマイナンバーを記入する欄がありますが、これが空欄でも申告書は受け付けられますし、税務署は自ら申告者のマイナンバーを調べることができます。行政機関間でしか利用されないため、万が一情報漏洩が起きた場合には行政が責任を負うこととなります。

 一方、マイナンバー・カードは「任意」で作るカードで、本人の証明と個人情報の幅広い収集・提供を目的とするものです。券面にかかれている基本4情報(氏名・生年月日・住所・性別)以外の情報はICチップに記録された情報を基にインターネット経由でやりとりされます。マイナンバーと異なり、匿名化されビッグデータとして民間に提供されることもあります。ここで扱われる個人情報についてはひとりひとりの個人が収集・提供に同意するかどうかを決めることができます。マイナ保険証による医療情報の提供もこれに相当します。そのため、オンライン資格確認の際に「同意する」・「同意しない」を選択することになるのです。個人が同意をしているため、情報漏洩が起きた場合でも行政は責任を負わないこととなっています。

 

Q2. マイナ保険証を使うと「質の高い医療」が受けられると言いますが、「質の高い医療」とはどのような医療なのでしょう?

A2. 世界保健機関(WHO)の最新統計(2023年版)では、平均寿命、健康寿命とも日本が世界で1位です。また、新生児死亡率・乳児死亡率ともに世界の中でも最下位のグループに属しています。その背景には世界でも優れた日本の医療制度がある(日本医師会)と言われています。この事実だけでも世界の中で日本の医療は質が高いということができるのではないでしょうか。しかし、オンライン資格確認やマイナ保険証の議論の中で言う「質の高い医療」とは、前述のような国としての質ではなく、各個人の受ける医療について論じているようです。すなわち、個人の医療情報をリアルタイムで日本全国どの医療機関からも参照することができ、適切な治療ができるようにすることを言っていると考えられます

 

Q3. マイナ保険証で医療機関が共有できる医療情報はどのような情報ですか?

A3. 患者さんが同意すると医療機関で共有できる情報は、1)特定健診情報(過去5年分)、2)薬剤情報+手術以外の診療情報(過去3年分)、3)手術情報(過去3年分)、の3つです。それぞれについて簡単にコメントします。

1)特定健診で行う検査項目には限りがあり、医療機関で知りたい内容が含まれているとは限りません。

2)薬の飲み合わせで生じる副反応や薬剤の重複処方を避ける意義はありますが、これらは現在使われている「お薬手帳」でも機能しています。過去の病歴でも患者側からは知られたくない情報もあるので、それらが全て受診する医療機関で閲覧できることに抵抗感を持つ方もいらっしゃるでしょう。

3)これも患者側からすると知られたくない情報もあると推測します。

 

 将来的に政府は上記の情報に加えて、医療機関のカルテ情報や自治体の予防接種、介護認定情報などもデジタル化し、利用者や医療機関等が閲覧・共有できるプラットフォームを作るとしています。しかし、現時点で得られる情報は限られており、必ずしも最新の情報ではないので中途半端と言えます。電子カルテシステム等、各医療機関のインフラが整わないと理想とする「質の高い医療」は実践できないと考えます。また、機微性の高い個人情報が扱われるので、セキュリティー対策も十分でなければならないのは言うまでもありません。

 

Q4. 資格証明書と従来の保険証とは違うのでしょうか?

A4. 従来の保険証は保険料を納めていれば、自動的に送付されていました。また、国民健康保険では2年ごとの更新があり、社会保険では勤務先または所属する健康保険組合が変わらない限りは更新されることなく使うことができます。

 当初、資格証明書については申請が必要であり、その期限も1年とされていました。しかし、現時点ではマイナ保険証を持たない人、全員に申請なしで交付することし、期限も各保険者が5年を超えない期間に決めるとしています。ただし、前述のような情報の共有はできないこととなっています。また、あくまで一時的な措置であり、現行の保険証廃止の方針は変わっていません。

 

:インターネット上で「質の高い医療」と検索しても、個々の医療機関や研究者独自の「質の高い医療」についての解説は見つかりますが、厚労省や日本医師会等が明確に言葉の意味を定義していないようで、その意味するところははっきりしません。なお、「オンライン資格確認」の項の脚注*3にあるように現時点で得られる情報は必ずしもリアルタイムのものではありません。